読書日記

トオマス・マンの『トニオ・クレエゲル』を読んだ。久しぶりの名文。名著。
「幸福とは―と彼は胸の中でいった―愛せられることではない。愛せられるというのは、嫌厭の念と入りまざった、虚栄心の満足である。幸福とは愛することであり、また愛する対象へ、時としてわずかに心もとなく近づいてゆく機会をとらえることである。」
と幸福を定義したマンが
「最も多く愛する者は、常に敗者であり、常に悩まねばならぬ」
とも作中で述べている。どちらもふうむと頷ける。
頷いてしまう。確かにこの言葉たちだけでは矛盾しないが、それはつまり幸福とは愛することであるがそれは敗者であり、悩まねばならぬ者であると。
なるほどその悩みを引き受けてこそマンの求める幸福者足りうるのかと。でも皆が皆そんなには強くなれない。そこまで引き受けていられない。その前に自分を誤魔化してしまうか、潰れてしまうよ。