読書日記

初めて三島由紀夫を読んだ。
芥川同様に自殺した人間で、そのやり方の愚かさ加減に毛嫌いして読んでいなかったが、あまりにも気持ちが沈んでいたので題名に惹かれて買って、そのまま漫喫で読んでしまった。

以下いくつか抜粋
『世界が意味があるものに変れば、死んでも悔いないという気持と、世界が無意味だから、死んでもかまわないという気持とは、どこで折れ合うのだろうか。羽仁男にとっては、どっちみち死ぬことしか残っていなかった。』
『彼女の自殺の原因は単純だった。つまり彼女は羽仁男を愛しはじめていたが、愛し返される自信がなかったので、死んだのである。』
『今度はひどく疲れたので、ドアの札は「只今売切れ」の方を向けておいた。疲労が、彼を生きのびさせているのは、ふしぎな現象だった。死という観念と戯れるのにさえ、エネルギーが要るのだろうか。』
『一度失敗しているだけに、自殺だけは、どう考えても億劫な気がした。折角自堕落ないい気持になっているときに、つい目と鼻の先にあるタバコをとりに立つ気がどうしてもしない。十分タバコを喫みたい気はあるのだが、ここから手をのばしても届かないことのわかっているタバコをとりに立つことが、何だか故障した自動車の後押しをたのまれるほど、しんどい仕事に思われる。それがつまり自殺なのだ。』
『人生が無意味だ、というのはたやすいが、無意味を生きるにはずいぶん強力なエネルギーが要るものだ、と羽仁男はあらためて感心した。』
『考えてみると、生きることがすなわち不安だという感覚を、ずいぶん久しい間、彼は忘れていたような気がする。それは、しらずしらず、羽仁男が「生」を回復したしるしではないだろうか。』
(命売ります、より)