引用のみ

村山由佳
「BadKids」より

たぶん彼は、才能が他の人より多く「ある」わけじゃない。そうじゃなくて、他の誰もが持っているものが、彼には初めから「ない」のだ。

彼を突き動かしているのは、だから、自分が欠陥品であるという意識だ。あるいは意識さえしていないのかもしれないけれど、とにかく、その穴ぼこを埋めようとする必死の作業が彼にとっては写真を撮るという行為なのだ。

何とかと天才は紙一重なんて言われたり、芸術家は奇嬌な振る舞いをするものと決まっているみたいだけど、そんなの全然不思議じゃない。乱暴な言い方をすれば、自分の中にそういう穴ぼこを抱えている人たちのうち、ある人はそれを埋める自分なりの方法を見つけて天才とか芸術家になるし、ある人は見つけられずに社会に適応できなくなる…。そういうことなんじゃないだろうか。

あたしは、自分の穴ぼこを思ってみる。今日これから、またひとつ新しくできるはずの穴ぼこのことも。

………

抱えている穴ぼこが大きければ大きいほど、それを埋めるには大変なエネルギーがいるはずで、そのエネルギーが、いつかあたしに凄い写真を撮らせてくれる可能性もないわけじゃない。でも、もしかしたら、その穴ぼこに逆にのみ込まれてしまう危険だってあり得るのだ。