色に語られる

初めてシリーズ。この人も初めて読む作家。こちらはなかなかよかった。この人の感性が好きだと思う。ストーリーや人物の描き方が取り立ててすごいとは感じない。しかしこの人が表現しようと思うモノそれ自体にきっと魅力を感じている。主人は染色家の女性、恋人には命を撮る写真家。アフリカの大地を舞台に、さまざまな風を吹き付けてくれる。アフリカに行きたくなった。
少々長いが引用。
「咲ききった八重桜の花の中に、すでに夏に向かう緑のほとばしりがひそんでいたのと同じように、冬の枝の中には、春にひらくはずの花のいのちが宿されていたのだ。自然の密やかな約束ごとを、無理強いして覗き見てしてしまった後ろめたさがあった。咲けぬまま切りとられた桜の枝から、花の精の無念がにじみ出て糸を紅く染めたのだと思った。」