読書日記

「昨日、見かけた娘、それで十分なのさ。その娘に、おれの知ってるあらゆることを当てはめて行く。そうすると、想像の中で、彼女は、勝手に動き始める。想像って、自分の知識から生まれるもんなんだぜ。知ってるって、大切なことだよ。それがなきゃ、何も始まらない」(山田詠美、『高貴な腐蝕』より)

これは主人公の男性が自慰のことを語るシーンだ。男性陣には多いに共感できるものではないかと思う。いや、俺はビデオ派だエロマンガ派だ、写真派だ、想像なんかじゃ勃ちゃしないと反論があるかもしれないが、そこはなんとか抑えて欲しい。僕が記しておきたいのは想像して自慰することではなく、後半の文章。

「想像って、自分の知識から生まれるもんなんだぜ。知ってるって、大切なことだよ。それがなきゃ、何も始まらない」ってとこ。
雪を知らない人は、天から白いものが降ってくるなんて想像もできない。
幸せを知らない人は、自分が幸せになれるなんて想像もできない。
知らない生活を知ること、知らない生き方を知ること。知らなければ想像も出来ない。思い描いたものでなきゃ、近づきようもない。想像したものが手に入るかどうか、信じるかどうかは次の問題だ。知らなければ想像も出来ない。
これが男と女の話なら、あなたがいることを知らなければあなたといる暮らしは想像も出来なかった、となり。
これが友達の話なら、優しくしてくれる人がいると知れたから、優しい明日を想像できる、となり。
これが信仰の話なら、厳然として存在する偉大な法則を知らなかったら、その法則に則り自らが幸せを築けるなどとは想像もできない、となる。
知ることは大事だ。知識は大事だ。
自分がなりたいと思った自分になれる、と言われても、なりたい自分が想像できない。そんな自分に。
「あなたはどうしたいの」と問われても、分からない自分に。