秀逸な短編集

僕は基本的には長編小説が好きだ。主人公と同じ世界で呼吸し、生きることができるからだ。しかし短編小説はその虚構の世界の空気を感じたころに物語自体が終わってしまうのでいつも若干物足りなく感じてしまう。
しかしこの作家はもしかした短編小説のほうがいい小説が多いのではないかと思う。山田詠美の文章は空気が濃い。それで疲れることもあるし面倒くさくなることもある。その濃さが短編にはちょうどいいのかも知れない。
短編集は基本的には愛、恋が描かれている。そのときに現れてくる自分の生き方も。短編のレビューなんてあまりにも難しいので、気になった言葉を紹介する。
「自分こそ、犬を追いかけて、遠くにきてしまった子供だ。自分が、本当に欲しいものを夢見たことがなかっただけなのだ。」(『眠りの材料』より)