「部分」2

話はまだ続く。
山崎豊子沈まぬ太陽という小説がある。飛行機墜落事故の御巣鷹山事件を主題にした全5巻とやたら長い小説。その中で遺族が遺体を引き取りに来る場面でものすごく納得してしまう場面があった。
墜落事故だから人間の体なんてぐちゃぐちゃなわけで、ばらばらに飛び散って見つからないなんて当たり前で、ひどいのになると熱で溶けてしまい数人がぐちゃぐちゃでどっからが誰なのかなんて判別がつかないなんてのもあった。
その中で夫を引き取りにきた夫人。安置所で現場から集めたさまざまな部分を棺に入れている。一つ一つ開けていき確認していく。胴体だけ、足だけ、顔の半分だけなど、ひたすら探す。もちろん一日では終わらないし、見つからないことだって、判別しようがないものだってあった。腐敗しないようドライアイスで冷やされた棺をひたすら見る。
そこで夫人がようやく夫を見つける。棺に入っていたのは手首だけ。夫人は哭きながら「夫の手です」と係に伝える。という場面。長年連れ添って、自分を愛してくれた手を忘れられるわけがない。想像を絶する地獄の中での厳粛な生に涙を流した。