絶望を根っこにたらしたゆったりした時間

「絶望と親しくしているお陰で、私の生活は平和そのものだ」この一文にこの小説の空気が凝縮されている。時間が遅い。空気がぬるい。澱んだ水は腐る。ということをゆっくりと甘く語りかけてくる。この小説は毒にも薬にもなる。気をひき締めて取り掛かる代物ではないが、いつのまにかこの主人公のような生き方をしていたら怖い。そしてそれはこの現代社会においては大いにありえるし、ありふれていて、当人も気がつかない。そのことに気がつけたら薬になるだろう。